〔羽毛の貝の神殿〕Plumed Shells
➡〔ジャガーの神殿〕Jaguars
➡〔羽毛の蝶の神殿〕Quetzalpapalotl
まず、混乱しないように書き添えておきますが、〔ピューマ／ジャガーの壁画の神殿〕と〔ジャガーの神殿〕とは別のものです。
〔月の広場〕西側です。白い列柱が見えます。そこが〔羽毛の蝶の神殿〕（＝ケツアルパパルトルの神殿）です。その下に、〔羽毛の貝の神殿〕、すぐ西側に〔ジャガーの神殿〕が、重なり隣接しています。
この3つの神殿は〔月の広場〕にほぼ面していますので、ハイランクのそれだと思われます。
この写真は、展望台から北西を望んでいます。左から、土産物店、出入り口3への小道、〔ジャガーの神殿〕の一部、右端は〔羽毛の蝶の神殿〕で、写真中央の地下に、２つの神殿に半分ずつ覆い被されて、〔羽毛の貝の神殿〕が埋まっています。
西暦100年〜250年…黒線…〔羽毛の貝の神殿〕が建築されます。
西暦350年……………緑線…〔ジャガーの神殿〕は、〔羽毛の貝の神殿〕の西半分を覆いつつ、建築されます。
西暦450年……………赤線…〔羽毛の蝶の神殿〕は、〔羽毛の貝の神殿〕の東半分に重なりつつ、建築されます。
見学順路は、青い点線です。
順路1↓…遺跡公園の入り口3から入るにしても、〔月の広場〕から入るにしても、土産物店街から〔ジャガーの神殿〕へ通じる小道を進みます。
順路2↓…〔ジャガーの神殿〕の中庭に入ります。ここで、東側の〔ジャガーの神殿〕の中央階段を見上げます。その奥、つまり裏側に、〔羽毛の貝の神殿〕が埋納されています。
順路3↓…〔ジャガーの神殿〕の広場を北辺まで歩き、その壁画を見たくなる心を抑えて、右の奥へ進みます。
順路4↓…すると通路が東へ伸びています。途中、右側に柵で閉じられた空間がありますので、覗き込みます。
順路5↓…左に上がる階段が見えます。右上に、〔羽毛の蛇〕の頭部があります。この階段は、位置関係からして、〔ジャガーの神殿〕の以前のそれのように見えます。格子戸から見える角度が限定されていますが、左にもあるのかもしれません。
順路6↓…通路を進むと、〔羽毛の貝の神殿〕へ入ります。
真正面の戸口の向こうに、詰め物が見えます。〔羽毛の貝の神殿〕の上に〔ジャガーの神殿〕が重ねられる際に、空洞では陥没しますので、充填物を詰め込んだのでしょう。おそらく、〔羽毛の貝の神殿〕の全空間が同様で、発掘隊が掘り出して詰め戻した可能性が見えます。
ここでちょっと、2つの神殿に見られる「羽毛」について述べておきます。羽毛そのものが単体で描かれることはなく、「何かの生物」に「羽」が付加されます。羽は、鳥にあり、上空へ飛び立ちます。そこは「天空」で、宇宙の最上界であり、雨の源も象徴しているのでしょう。〔ジャガーの神殿〕で紹介する〔網ジャガー〕の頭飾りには羽毛がありますが、ジャガー本体に生えてはいませんので、意味が異なると感じられます。
それでは西暦100年〜250年から見学しましょう。
〔羽毛の貝の神殿〕Temple of Plumed Shell
基壇部には緑の鳥がいます。たくさんの血の滴りも描かれています。生贄の血、というよりは、自己犠牲の出血を表現しているように見えます。その上のフリーズ部分に、〔太い円〕が並んでいます。
〔羽毛の貝の神殿〕の正面です。手前に階段が写っています。門口の左右に、赤い〔羽毛の貝〕が２つずつ彫られてあります。左の拡大写真には、上のフリースとその上に、大小の黄色の〔四弁の花〕があります。
〔四弁の花〕はテオティワカンのこの時代の都市紋章だという意見があります。解釈を強めると、四弁は四方向／東西南北を指します。
西暦100年〜250年と判断される建築物は他に多くはありません。強固で精緻な石組み、浮き彫りと基壇の壁画、重厚な雰囲気は、特別な光を放っています。この都市の最初期の精神性が凝縮されている空間のようです。
ところで、壁画博物館に〔羽毛の貝の神殿〕出土と明記されて、建築物の壁画が展示されてあります。神殿内に見当たりません。充填物で埋められた部屋のどれかでしょうか。
↑↑at 壁画博物館。
建物は下から、石段、楕円の半分の入り口、一階のフリース、格子模様の、あるいは空気が抜ける2階、その天井、四角いアルメナ（屋根縁飾り）、でしょうか。こんな建物はテオティワカンに現存していません。もしかしたら、2階以上が取り壊される前の〔羽毛の貝の神殿〕そのものでしょうか。建物の周りは波、上は水路の半眼、かな。背景は、縦流れの水のようでもあります。何らかの概念の描写でしょう。
順路7↓…出口です。土産店街へ戻り、右に曲がり、再び〔ジャガーの神殿〕へ入りましょう。
〔ジャガーの神殿〕Temple of Jaguar
建築は西暦350年です。中心部へ入るのに、住居あるいは倉庫跡を通りますが、中庭へ降りる直前に、気配を感じて、振り返ります。
左の壁に壁画が見つかります。中庭へ降りましょう。
平らな広場の右側（東）に、〔ジャガーの神殿〕の最上段へ昇る階段が見えます。それが〔羽毛の貝の神殿〕を覆っています。
中央階段の最下段に、ジャガー像があります。他にもよく見るデザインで、像は、上の1/3が両目、中央が上顎、下が下顎です。
水色の屋根の下に行きましょう。
ほぼ同じデザインのジャガーで、吠えています。一つの柱廊の、中央の戸口を挟んで、2つずつ。そっくりな柱廊が3つ並んでいますので、合計12あったようです。最初に見た壁画と同じ図像でしょう。
もしかしたら中庭に面したどの壁面にも、網表現ではないジャガーが描かれていたのではないでしょうか。
では最後に、北西の角の奥へ進みましょう。
順路8↓…下の写真の、水色の屋根の左の門口へ入ります。
右の暗い門口に出てきます。右側の腰壁部分に壁画があります。中央の出入り口を挟んで、正面に2つ、脇に1つの合計6つ、ありそうです。
また、小さな中庭と左に住居／倉庫があります。特別なスペースだったことでしょう。
広い中庭で見てきたジャガーとは、デザインが異なります。
説明看板を載せます。赤い文字は、私の想像です。
ジャガーの全身に描かれた網目模様は、例えば、「ジャガーが最高位の神へ昇華した姿」だという、私の思いつきはいかがでしょうか。神は現実には見えません。しかし見えないと、存在しない、に繋がりかねません。不可視のジャガーを表現したいのですが、うーむ、しかし、描きようがありません。だから、網目を描いて、透明感を表現したのではないでしょうか。
広い中庭のジャガーは普通の神であり、網ジャガーは高位の神、ということだったのかもしれません。
さらに、人間の両手が見えます。網ジャガーを抱えているようには見えないので、両手の人間の胸から上が網ジャガーである、という表現でしょう。もしかしたら、「最高位神へ変身した司祭」という意図もあるかもしれません。
なお、ジャガー神はメソアメリカ全土に古くから存在していました。チャルカツィンゴ遺跡の紀元前800年〜前500年の石彫に見られます。
では、土産店街へ戻るか、再び〔羽毛の貝の神殿〕を通るかして、最後の神殿へ行きましょう。
〔羽毛の蝶（＝ケツアルパパルトル）の神殿〕Quetzalpapalotl
西暦450年の建築です。ここは、正面階段から入っていく感覚で見ていきましょう。白い列柱（前室1）が印象的です。
階段上部の右にだけ、〔羽毛の蛇〕の頭部があります。似ています。比べてみましょう。右が〔羽毛の貝の神殿〕に埋納されていました。
似ていますが、細部が異なりますね。階段を登り切り、振り返ってみましょう。
右に〔死者の通り〕があり、左に〔月のピラミッド〕があります。〔月の広場〕の喉元を横から見通す、という特別な立地です。
前室 1には天井が復元されています。樹木は、テオティワカン渓谷の周囲の丘にたくさん生えています。
壁の下部に、おそらく「波打つ水面」が描かれています。
北西の門口を通ります。
順路9↓…〔羽毛の蝶の神殿〕の中庭です。中庭床の四角い縁は高く、水をたたえることができそうです。
発掘報告書によると、中庭は原型を留めないくらいに崩れていたようで、550年の火災の痕跡も散乱していたそうです。1960年頃の考古学者の力技で復元されました。
↑at 文化博物館。↑〔羽毛の蝶の神殿〕。
屋根の縁にはアルメナが立ち、屋根の形状と高さは黒焦げで転がっていた梁の断片から考察し、赤いフリースの図像は前室1のそれを参考に考案した、と記録されています。
羽毛の蝶が彫られた柱です。2枚目の中央にそれがあります。上下と両脇に配置された二重か三重の円があり、両脇の縦長部分の上下に、つまり4つの〔年の松明〕が見えます。
この柱は元々は石灰岩の一つの塊に彫られたと思われます。発見時、バラバラに壊れて散乱していました。考古学者たちはかけらを拾い集め、ジグソー・パズルに挑戦し、足らない部分は推察力で補いました。ですから、色の違い、図像の境目のずれが生じました。
また、出土位置は不詳ですが、この神殿のどこかで、希少な石化石膏の巨大な浮き彫りが回収されました。トラロック神像だという説明です。
↑at 人類学博物館。
3神殿の経緯を想像する
3神殿は西暦100年から550年まで、ほぼ同じ位置で重なり隣り合うように建築されています。ですが、掲げられた意匠はまるで異なります。前の神殿の意匠の引き継ぎは、なされていません。
乱暴に想像すれば、
１、西暦100年に〔羽毛の貝の神殿〕が建立される。しかし、血筋が絶えて西暦250年に管理者がいなくなる。
２、100年間放置されていたが、西側に、西暦350年に新たな血族が、〔ジャガーの神殿〕を建立する。
３、さらに100年後の西暦450年に別の血族が、東側に〔羽毛の蝶の神殿〕を建立する。
ということだったのかなあ、と想像しておきます。
建築物の修復に関して
考古学者は目の前にある痕跡から考察を始めるでしょう。石造、木造、枝と泥にかかわらず、壁の基礎がとっかかりです。基礎が抜けている箇所は戸口と見なしていきます。平面図は描けそうです。
建物をそっくり復元するには、具体的な高さが必須です。天井まで165cmだったのか、190cmだったのかは、その一部が建って残っていない限り、判断しかねます。朽ちた木材が出土したからといって、天井／屋根があったと判断するのも早計でしょう。
次の世代の考古学者が発言し始めました、状況証拠から得た寸法は、あなた個人の尊重すべき学術経験からの仮説であり、万人にとっての証拠ではないと。この意見は主流となり、観光客には幸か不幸か、21世紀に入ってからの建物完全復元工事は行われていません。〔羽毛の蝶の神殿〕の中庭は、1960年代の考古学の結果として、残っています。
再び、〔羽毛の蝶の神殿〕の前室1から東を眺めてみましょう。写真奥のやや右寄りに写っている緑の平地に、〔サーラ〕への土手道がありました。
